新婦 レイカさん(30代後半)モデル
新郎 アキラさん(30代前半)会社経営
*都内の外資系ホテルにて2カ月後に挙式予定

Beautiful wedding couple is enjoying wedding

身長170センチ近くのスレンダーボディのレイカさんは雑誌やカタログなどに登場するモデルさん。女優の北川景子さんを彷彿とさせるような美人さんです。今回は、レイカさんのお友だちから「彼女、ちょっとマリッジブルーなの」とのご紹介でお会いすることになりました。

2カ月後に結婚式を控え、ドレスやお花などの準備も順調に進んでいると事前に伺っていたのですが、開口一番、レイカさんは「わたし、このリングがどうしてもイヤで捨ててしまいたいんです」と語り出しました。

レイカさんの左手の薬指に目を移すとブライダル業界のものが見ればすぐに分かる有名ジュエラーB社のエンゲージメントリングが凄まじい存在感で輝いています。しかも1.5カラットはありそうな大きなダイヤモンド! 値段の話をして恐縮ではありますが、500万円はするのではないかという、とてもご立派なお品物です。

内心「あらら…?」とワタクシは思いました。だって、こんなに素敵なリングを捨ててしまいたいなんて、どうしてしまったのでしょう?!

「どうしてですか?」との問いに「わたし、C社のリングが良かったんです!!!」と力強いお答え。

まぁ、ブランドやデザインの好き嫌いは誰にでもありますよね。

「どうしてC社のになさらなかったのですか?」
「彼(アキラさん)が選んできたんです。いきなり渡されて、プロポーズされたんです」

レイカさんは、彼のことが嫌いなのかしら? 結婚したくないのかしら?

サプライズでリングを渡されながらのプロポーズ。女性なら嬉しいですよね。しかも、有名ジュエラーのあんな大きなダイヤモンドのリングです。

しかもプロポーズされた場所は都内でも超がつくほど高級なホテルの人気レストラン。なかなか予約が取れないと評判のそのお店でさらにレアな夜景がきらめく窓際の席。一般的に思いつく限り最高にロマンティックな場所で結婚の申込みを受けたそうです。

「アキラさんがレイカさんのことを想って、一生懸命考えて、選んでくださったリングなんですよね? 彼と結婚したくないのですか? 彼のことが嫌いですか?」

「結婚はしたいですし、彼のことは好きです。もちろん、彼がわたしのことを想ってくれるのは分かっています。けれど、彼っていつもこうなんです!」と怒り顔のレイカさん。「昔からC社に憧れていて、プロポーズされるならば絶対にC社のリングって決めていたんです。もちろん彼にもそれを伝えていました。なのに、レイカにはB社のリングがお似合いだよって」

「アキラさんはいつもそうなのですか?」
「はい。プレゼントでも食事でもなんでも君のはこれが似合う、相応しいと言って勝手に選んでしまうんです。わたしがどこに行きたいと言っても僕がもっといいところに連れて行ってあげる。なにを食べたいと言っても君に相応しいレストランをすでに予約してある。着るものや持ち物に関しても、それは君には似合わないと言って、私が気に入っているものを否定されるんです。結婚式の準備でも式場はここ、ドレスはこれ、とひとりで決めてしまうんです。彼はわたしのことをすごく大切に扱ってくれます。お付き合いするときも、綺麗だ、可愛い、大好きだと誉め称えてアプローチしてくれました。わたしのことを自慢だと言ってくれます。でも、わたしの話はなにひとつ聞いてくれません」

「新居も勝手に決めてきて、早く引っ越して来いと言っています。でもわたし、嫌なんです。どんなに綺麗で立派だろうとわたしは六本木のタワーマンションになんか住みたくありません」

「綺麗に着飾って、僕の隣りで笑っていればいいんだよっていつも言われるんです」「わたしはただのお人形さんなんです!」

アキラさんは20代後半で独立し起業。IT業界で画期的なサービスを開発し、順調に業績を伸ばしていらっしゃるそう。お写真を見せていただいたところ、若かりしころのホリエモンような自信に満ちあふれたお顔をしていらっしゃいます。誰が見ても「お似合いのカップル」と言われることでしょう。

友人のパーティで知り合ったお二人。レイカさんより何歳か年下のアキラさんの一目惚れだったとか。お仕事で成功した男性がプライベートの充実を求めるのは当然のこと。美しくて聡明なレイカさんをパートナーとしてどうしても手に入れたいというアキラさんのお気持ちは充分に理解できます。

ただ、あまりにもレイカさんに憧れ、恋いこがれるが故に、恐らくレイカさんを「神格化」しまっているのでしょう。アキラさんの中では「彼女はこうでなければならない」という強い気持ちがあり、彼の「理想」を押し付けてしまっているようです。

「このことに関して彼と話し合ったことはありますか?」
「もっとわたしの意見を聞いて、内面を見てと言ったことはあります。けれど、僕に任せていればすべては大丈夫だから。幸せにするからと言って取り合ってくれません」

「レイカさんにとっての幸せとはなんですか?」
「好きな人と一緒に仲良く寄り添って生きて行きたいです。心と心が通い合った状態が理想です」
「いま、アキラさんとそのような状態ですか?」
「きっと、違うと思います」

パートナーとのコミュニケーションにおいて精神的なダメージを受けているご相談の場合、わたくしは必ず「少し立ち止まってみませんか?」とお話します。花嫁さんは結婚式に向けてカウントダウンがはじまっています。レイカさんもお式まであと2カ月。準備に追われゆっくり考えることもできず、時間だけが過ぎて行きます。このままでいいのか? どうにかしたい! そう思っていても「進むしかない」とベルトコンベアーに乗ってしまっているような状態です。

けれど、いつでも「立ち止まることはできます」。場合によっては結婚式を延期しても良いとワタクシは思っています。不安を抱えたまま、疑問をもったまま、相手のことが信じられないまま、結婚してしまうのはとても危険なことですし、不幸なことだとワタクシは思っています。

「ちょっと立ち止まって考えてみませんか? 結婚式の日程を変更してもいいんですよ」
「そんなのダメです! わたしには後がないんです!!!」

「わたしはもう30代も後半。友だちはみんな結婚して子供がいるし、わたしだけがひとり結婚していないんです。わたしにはもう彼しかいないし、こんなチャンスはもう二度とないんです。ここで結婚しなければ一生ひとりです…!!!」レイカさんは目に涙をいっぱい溜めて、諦めとも怒りともつかない表情でワタクシに訴えます。

そんなことないですよ。レイカさんはとても素敵な女性です。もしアキラさんと結婚されなかったとしても、もっとご自分にぴったりの相手が見つかることもあるでしょう。自分の心を閉じ込めてしまってまで彼に合わせることはないんです。ご自分を大切にしてあげてください。ワタクシは心の中でこう叫びました。

なんと声をかけたらいいかと考えているワタクシに、唇をキッと噛み締めたレイカさんは「全部、わたしの我がままなんです。わたしさえ我慢すれば、結婚すればきっとうまく行くはずです」絞り出すような声でそう言いました。

わたしが我がまま
わたしさえ我慢すれば
結婚すれば上手く行く

そう仰って結婚された花嫁さんが過去にもいらっしゃいました。けれどその方は1年と経たずに離婚されました。

けれど、自分の人生を決めることができるのは自分だけです。

最後にレイカさんにこう問いました「どうされたいですか?」
「わたしには彼と結婚する以外の選択肢はありません」
レイカさんの結婚を誰にも止めることはできません。
「結婚して落ち着いたら、彼ともっと話し合おうと思います」

「リングが気に入らないって話すと友だちから我がままだって怒られるんです。リングを眺めてため息ばかりついていました。誰も話を聴いてくれなかったので今日、梅沢さんに話せて楽になりました。ありがとうございます」そう言ってレイカさんは帰っていきました。

カウンセラーは相談者の問題を解決する人ではありません。客観的なものの見方や相談者が気づかなかった視点などをアドバイスすることはあっても、問題をどう解決するか、お悩みを解消していくかは相談者ご自身が判断するしかありません。あくまでもサポーターに過ぎないのです。

2カ月後、レイカさんから無事に結婚式を挙げたと連絡がきました。ご相談から数年が経ち、またいつでもレイカさんのお力になれることがあれば…と思う一方で、このまま何事もなくお幸せで過ごしてくださることを心より願っています。

 

*このコラムは実際のご相談に基づいておりますが、プライベートに配慮し名前や職業等の個人情報、一部の内容に関してフィクションになっております。